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利他法律事務所
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最高裁判所判決
事件番号 | 平成25(受)第1420号 |
事件名 | 遺留分減殺請求事件 |
裁判年月日 | 平成26年3月14日 |
法定名 | 最高裁判所第二小法廷 |
裁判種別 | 判決 |
結果 | 破棄差戻 |
判例集等巻 | 民集 第68巻3号229頁 |
判決要旨
時効の期間の満了前6箇月以内の間に精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者に法定代理人がない場合において,少なくとも,時効の期間の満了前の申立てに基づき後見開始の審判がされたときは,民法158条1項の類推適用により,法定代理人が就職した時から6箇月を経過するまでの間は,その者に対して,時効は,完成しない。
判決解説
本件は、遺産相続を巡る争いのうち、遺留分減殺請求に関する重要な最高裁判所の判決です。
1、例えば、父A・母B・長男C・長女Dがいて、父Aが6億円の遺産を残して死亡した場合、母Bが2分の1
・長男Cが4分の1・長女Dが4分の1を相続するのが原則です。母Bが3億円・長男Cが1億5000万円・長女が1億5000万円を相続することになります。
2、ところが、父Aが長男Cに全部相続させるとの遺言を残していた場合には、長男Cは6億円・母Bは0円・長女Dは0円となります。ただし、母B・長女Dが1年以内に遺留分減殺請求権を行使した場合には、母Bは4分の1・長女は8分の1を取得できます。母Bが1億5000万円・長女Dが7500万円となります。重大な事ですので、弁護士に依頼して内容証明郵便で権利行使をするのが望ましいと考えます。
3、遺留分減殺請求は、「遺留分権利者が、相続の開始及び減殺すべき贈与または遺贈があったことを知った時から、1年間行使しないときは、時効によって消滅します」(民法第1042条)。では1年間を過ぎていたら絶対に遺留分減殺請求はできないかというと、そうではありません。時効の満了前6箇月以内の間に成年被後見人に法定代理人がいないときは、法定代理人が就職したときから6箇月を経過するまでは時効は完成しません(時効の停止、民法第158条1項)。
4、この条文をそのままあてはめると、例えば、平成20年10月に父Aが死亡し、母Bは認知症で意思能力がないことから、平成21年8月家庭裁判所に対し、母Bの成年後見の申立がなされたが、家庭裁判所が成年後見人を選任したのが平成22年4月になった場合、成年後見人が4月に遺留分減殺請求をしたとしても、相続開始してから1年6月が経過してしまっていることから、時効が完成してしまっているのです。本件事件の地方裁判所判決・高等裁判所判決は、いずれも時効の停止を認めず、時効が完成しているとの判断を下しました。当職は、原告母Bの成年後見人として、遺留分減殺請求訴訟を行いましたが、地裁・高裁とも敗訴となりました。
5、しかし、これはおかしい。そもそも「時効の満了前6箇月以内の間に成年被後見人に法定代理人がいないときは、法定代理人が就職したときから6箇月を経過するまでは時効は完成しない」とされたのは、成年被後見人に法定代理人がいないことから、成年被後見人は遺留分減殺請求しようにもできないからです。そうすると、平成21年8月に母Bの成年後見の申立がなされた時点で、母Bにつき医師の後見相当との診断書が提出されていますので、この申立に基づいて後見人選任の審判がなされた場合には、母Bが遺留分減殺請求しようにもできない状態にあったことは明らかですので、時効の停止を認めるべきなのです。
6、この理屈を最高裁判所は認めて、「時効の期間の満了前6箇月以内の間に精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状況にある者に法定代理人がいない場合において、少なくとも、時効の期間の満了前の申立てに基づき後見開始の審判がされたときは、民法第158条1項の類推適用により、法定代理人が就職した時から6箇月を経過するまでの間は、その者に対して、時効は完成しない」との判決を下しました。これで、高裁判決は破棄差戻され、高裁での審理が再開されることになりました。
7、差戻審の高裁では、裁判官が判決を書きたくないのか、強硬に和解を勧告してきました。請求金額を減額し、しかも分割払の案でした。ここまで頑張ってきたのにいい加減な譲歩は出来ません。諦める訳にはいきません。裁判官は和解勧告することはできても、和解するかどうかは処分権主義で当事者に権限があるのです。高裁裁判官は高裁から和解案があったことを家庭裁判所に相談すべきだと言いました。その必要はないと断りました。民法第859条の3では、居住用の不動産の売却では、家庭裁判所の許可が必要なのですが、それ以外は家庭裁判所の許可は不要な筈です。当職は高裁裁判官に対し、許可が必要なら条文上の根拠を示すよう反論しました。結局和解はせずに判決になりました。
8、被控訴人は控訴人に対し、「各不動産について、持分5億5569万1854分の1億3829万0088の所有権一部移転登記手続をせよ。」「6811万2862円及び年5分の割合による金員を支払え」との判決が下されました。最後まで全力を尽くしたと思います。私の弁護士生活において、記憶に残る重要な判決となりました。